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2024.03.25
地域熱供給(地域冷暖房)

技術の概要

地域熱供給(地域冷暖房)は、一定地域内の建物群に対して、一ヵ所または数ヵ所の熱源プラントから、冷水・温水・蒸気などの熱媒を、導管を通して供給するシステムである。
欧州では100年以上の歴史を有する都市インフラであるが、現在、地域熱供給が発達しているデンマークで1903年に作られた最初の熱電併給プラントは、廃棄物焼却施設から電気と熱を近くの病院に供給するものであるなど、廃棄物焼却施設も重要な熱源となっている。
デンマークでは、その後、地域熱供給が都市部で普及したが、1973〜74年の国際的なエネルギー危機によるエネルギー価格高騰により、エネルギー自給及び効率の改善への意欲が高まり、燃料効率の良い熱電供給(CHP)システムが小・中規模都市にも普及させる決定がなされた。
1979年には、デンマークで初の熱供給法が可決され、現在、デンマークの住宅のうち63%が地域熱供給に接続しており、暖房や家庭用温水などが供給されている。
これまではCHPが普及しており、熱と電気を別々に生産する場合と比較しても極めてエネルギー効率が高いエネルギー供給が実現していたが、再生可能エネルギー電気の大量導入に伴い、今後は、CHPから電気へと熱源が変わっていくことも想定される。

地域熱供給による効果

地域熱供給では、需要側の熱源施設や大量の個別住宅の機器を変えることなく、一つの集中施設で燃料を変更することで、新しい燃料源の利用が可能となる。複数の熱源を持ったより大きな地域熱供給システムでは、需要などの地域の状況や売電価格などにより、燃料源を替えることが可能となる。
燃料の変更は、燃料価格の変動への対応可能性による経済面での効果でのみならず、熱生産の化石燃料を未利用熱に置き換えることも可能となり、温室効果ガス排出量削減にもつながる。

地域熱供給システムに要するコスト

地域熱供給システムの構築には個別方式と比較して多額のインフラ投資が必要となる一方、運営コストは低減が期待できる。
地域熱供給の実現可能性を評価する場合、熱供給システムの寿命全体のコストを考慮することが重要とする主張がある¹。すなわち、実現可能性は、地域の熱需要や熱密度を含めた多くの要因に依存するが、初期コストが高い場合であっても、高品質の設備・部品を使用することにより年間コストが下がり、安価な保守コスト及び長寿命の設備に起因して、熱供給システムの寿命全体を通したコストの低減も可能となるとするものである。

図1 地域熱供給イメージ

図1 地域熱供給イメージ
出典:経済産業省 資源エネルギー庁 HP
https://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/other/effective_use/environment_and_extended_use_004/

1 出典:「計画と規制 - 前提条件 デンマークでの地域熱供給プロジェクトにおける規制プロセス、役割と必須条件」デンマーク・エネルギー庁長官 モーテン・ベック(地域熱供給 都市部のエネルギー効率化 Ver.1.0(2016年12月、ステートオブグリーン(State of Green) 編集委員会、デンマーク・エネルギー庁、デンマーク熱供給協会、デンマークエネルギー産業連合会)

日本の状況

日本では、1972年に熱供給事業法が公布・施行されて以来、公害防止、都市防災、省エネルギー、CO2削減、都市美観の向上などの効果を掲げ、導入が進められてきた。日本の現在の地域熱供給の特徴は、業務(商業ビル等)を主な供給先(需要家)とし、それに伴い冷熱供給が重要となっている事例が多いことが挙げられる¹。冷熱供給のためには、例えば、部分負荷運転時も含めて効率の高いターボ冷凍機などを冷熱源設備として用いることも可能であり、また、海水・河川・地中熱などの未利用エネルギーの利用事例もあるなど、小規模の個別方式では採用が容易ではない技術の適用可能性が高められる。
一方、日本でも家庭を主な供給先とし、暖房・温水用途に限定している事例もある。この場合は、ごみ焼却施設から放出せざるを得ない復水排熱など低温の排熱を活用しやすく、温水を循環させるためのポンプ動力などのエネルギー消費により温熱供給が行えることとなる。今後、民生熱需要を脱炭素化していく上で、地域によっては、このような排熱利用も併用すれば、電化等の脱炭素化方策を補完できるのではないかと考えられる。

1 冷熱供給を行う場合に、ごみ焼却施設の余熱を熱源とする場合には、蒸気または高温水の供給がごみ焼却施設側に求められることとなり、発電とのトレードオフが生じ得るため、電気をエネルギー源とする冷暖房方式との間で、CO2排出削減効果の面からの比較検討も必要と考えられる。二酸化炭素排出削減効果に関する既存の検討例としては、コジェネレーションを利用する場合とごみ焼却施設の余熱蒸気を利用する場合の比較や、個別建物を対象とする場合の電気・ガス式や分散型空調(ビルマルチ)とごみ焼却施設の余熱蒸気を利用する場合の比較などについて、試算結果より以下のように示した報告もある。(出典:平成27年度廃棄物発電の高度化支援事業委託業務報告書(平成28年3月、一般財団法人日本環境衛生センター・公益財団法人廃棄物・3R研究財団)
・ガスボイラ方式との比較では、ごみ焼却施設の余熱蒸気利用の有効性は(熱輸送に伴うロスが小さいことを前提に)明らかである。
・地域冷暖房にコジェネレーションを導入した場合との比較では、電気のCO2排出係数によって、比較検討結果の様相は相違した。
・地域冷暖房にコジェネレーションを導入した場合との比較では、(将来的に)電気のCO2排出係数が十分低下した場合には、ごみ焼却施設の余熱蒸気を利用した地域熱供給の方が有利となりやすい。
・個別建物への直接的なごみ焼却施設の余熱蒸気供給を想定した場合には、電気・ガス併用式あるいはビルマルチ式と比べると、優位性は明確ではない。

廃棄物処理の余熱・排熱を活用した民生等への熱供給事例(国内)及び留意点

ごみ焼却施設から民生(品川八潮パークタウン)への地域熱供給事例を表1に示す。この事例では、床暖房なども含めたサービスが提供されている。
また、排熱を供給している事例としては、神戸市の六甲アイランドに立地する下水汚泥焼却施設(東部スラッジセンター)で発生する排熱を、地域熱媒水配管により集合住宅ゾーンに供給している事例もある。
ごみ焼却施設からの地域熱供給を促進していく観点では、地域再開発等と連携した行政の取組(例えば、地域熱供給導入の促進施策や、熱供給会社設立のための自治体による出資など)も重要となると考えられる。また、定期補修等の時期を調整するなど熱需要量が多い期間に熱供給量を確保できるよう調整することや、ごみ焼却施設の建替時期の焼却熱の供給ができない場合における対応について地域熱供給側との事前協議を行っておくことなどの工夫も期待される。

表1 廃棄物処理の余熱・排熱を活用した民生等への熱供給事例

表1 廃棄物処理の余熱・排熱を活用した民生等への熱供給事例

参考:
1 廃棄物エネルギー利用高度化マニュアル(平成29年3月、環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策)
2 平成27年度廃棄物発電の高度化支援事業委託業務報告書(平成28年3月、一般財団法人日本環境衛生センター・公益財団法人廃棄物・3R研究財団)
3 日本熱供給事業協会HP https://www.jdhc.or.jp/what/
4 経済産業省 HP 熱供給事業関連サイトhttps://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/other/effective_use/environment_and_extended_use_004/
5 地域熱供給 都市部のエネルギー効率化 Ver.1.0(2016年12月、ステートオブグリーン(State of Green) 編集委員会、デンマーク・エネルギー庁、デンマーク熱供給協会、デンマークエネルギー産業連合会)
6 地域熱供給50地区の事例リスト(国土交通省)

取組例

品川八潮団地
北海道札幌市(地域への価値創出)