エネルギー消費は最終的に「熱」を目的としている割合が大きいが、現状では、化石燃料をボイラ等で燃焼して熱を得ている場合が多い。脱炭素化社会の構築のために化石燃料からの転換が必要となっている。
図1 熱利用の現状(部門別エネルギー消費)
出典:資源エネルギー庁省エネルギー対策課「熱の有効利用について」(平成27年4月17日)より改変
ヒートポンプ技術により、暖房や給湯に代表される数十℃以下の熱は電気で「くみ上げる」ことが可能であるが、温度が高くなると、効率が低下する原理上、電化による脱炭素化が困難になってくる。
図2 地域のエネルギー需給と焼却による廃棄物エネルギー回収の対応
したがって、地域の製造業が今後の脱炭素社会において継続的に発展していくためには、化石燃料によらない熱源の確保が課題となってくる。
一方、焼却での廃棄物エネルギーの熱回収は、排ガスが浄化装置を通過する以前に行われるため、腐食成分の影響を回避する観点から、多くの場合400℃程度に抑えられている。このため、一般的な火力発電に比べて発電効率が劣っている。さらに、今後、太陽光や風力などの再生可能エネルギーが大量導入されるに従い、地域・日時によっては、電気の供給量が需要量に比べて余剰となる場合が生じてくると考えられる。
このため、脱炭素化社会においては、焼却せざるを得ない廃棄物から得られる熱を、そのまま熱として地域の製造業等に供給することが有望な利活用方策となる。なお、年間・昼夜を通じて熱需要が連続的に存在する場合には、発電装置(タービン発電機)が不要となる。さらに、発電が不要であれば、蒸気温度は需要に応じた温度まで低下させればよく、ボイラの部材も小型化も含めて安価にできるため、より経済性が向上することが見込める。
回収可能なエネルギーの販売価値及びCO2排出削減効果を、発電と蒸気供給で比較すると図3のとおりである。工場等への蒸気供給が、経済面・環境面の両面で優位性を有していることが分かる。
図3 焼却発電と工場への蒸気供給の経済的便益とCO2削減効果の比較
出典:藤井実「廃棄物エネルギー利用の高効率化に向けた展望」廃棄物資源循環学会誌、30(4), 2019 を改変
焼却施設から外部に熱供給する場合、通常は導管を用いるが、蓄熱材を車両等に積載し、需要場所へ輸送する方法(オフライン輸送)もある。導管での供給が難しい、遠くの需要場所へも供給が可能となる(なお、更に遠い場所へ供給可能な手段としては固形燃料化もある)。パリ協定長期戦略でも、イノベーションが期待されているCO2大幅削減に貢献する主要な革新的技術の一つとして「蓄熱・熱輸送技術」が挙げられている。
オフライン熱輸送技術については、将来、蓄熱密度や蒸気出力も可能となるように、利用温度が向上した化学蓄熱の開発・実証が進められている。
出典:令和2年度第1回シンポジウム-地域循環共生圏形成における廃棄物エネルギー利用施設の果たす役割と可能性-「化学蓄熱によるオフライン熱輸送技術の開発と今後の展開」(トヨタ自動車(株))
焼却施設の熱の利用は、化石燃料代替となるほか、需要場所との距離等の条件次第で化石燃料より安価に供給できる可能性もある。熱利用を行う際には、ボイラで発生させた蒸気をできるだけ発電(又は高温の産業需要等)に用いることが求められる。また、蒸気タービンで温度・圧力が低下した発電途中段階の蒸気や各種排熱についても、地域の熱需要の温度や量とのマッチングを図っていくことが重要となり、取り出される熱の特性に応じて、工場、農業、公共施設など多様な利用先が想定される。表1に、熱の有効利用が期待される供給先の例を示す。熱の有効利用方策例や事例の詳細については、「廃棄物エネルギー利用高度化マニュアル」(平成29年3月、環境省)で紹介されているため参照されたい。
表1 熱の有効利用が期待される供給先の例
出典:「廃棄物エネルギー利用高度化マニュアル」(平成29年3月、環境省)掲載の表に事例を追加。
事例は「令和元年度廃棄物処理システムにおける低炭素・省CO2対策普及促進方策検討調査及び実現可能性調査委託業務報告書処理システム報告書」(令和2年3月、環境省)の資料編(廃棄物エネルギー利活用方策の実務入門を含む)より抽出した。