佐賀市では、早くから「バイオマス産業都市さが」というビジョンを掲げ、清掃工場からのCO2を分離・回収して活用するという先駆的な取り組みが行われてきた。CO2を地域資源と捉え、新たな産業振興に結びつけるという斬新な発想だ。
こうした取り組みがなぜ始まったのか、どのような成果をあげているのか、佐賀市環境部 施設機能向上推進室の田中和之室長と、同企画調整部 バイオマス産業推進課の江島英文課長にお話を伺った。
田中氏 佐賀市では「バイオマス産業都市さが」という環境保全と経済的な発展が両立するまちを目指しています。将来像としては、廃棄物だったものがエネルギーや資源となり、価値を新たに生み出しながら循環していくまちというイメージを描いています。
こうしたビジョンを掲げる以前から、迷惑施設とされる清掃工場のイメージを変えたいと思い、下水汚泥の堆肥化やごみ焼却時の熱を使った温水供給や売電によって地域貢献を行ってきました。
平成25年に農林水産省などから「バイオマス産業都市構想」が示されたことをきっかけに、佐賀市全体でバイオマスを活用したまちづくりに取り組むことになったのです。佐賀市は市町村合併後にごみ処理施設の統廃合を行い、平成26年から佐賀市清掃工場でごみ処理を行っています。
取り組みの概要としては、佐賀市清掃工場の余剰電力を公共施設で地産地消しているほか、大学などと連携して清掃工場から出るCO2を分離回収し、さまざまな用途に活用しています。こうしたCO2の活用は「CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization 、二酸化炭素回収・有効利用)」と呼ばれていますが、佐賀市ではCO2を資源として早くから活用してきました。
(出典:佐賀市資料)
田中氏 清掃工場の余剰電力を地産地消する事業では、平成25年に小売電気事業者の事業者選定を行い、翌年に小売電気事業者を介して小中学校51校への電力供給を開始しました。さらに、平成28年には公民館などの低圧施設33ヶ所や図書館・本庁舎といった高圧施設28ヶ所を供給先に追加しています。
その結果、平成30年度には清掃工場からの売電量である年間1,700万kWhに対して、公共施設の年間使用電力量の合計は1,568万kWhとなり、清掃工場余剰電力の小売電気事業者を介した公共施設使用率が92%に達しました。
こうした地産地消事業を推進した原動力としては、市長のリーダーシップが大きかったといえます。また、地産地消事業を行う前は、清掃工場の余剰電力を外部に売電していたのですが、地産地消事業を検討するうちに佐賀市に大きなコストメリットが出ることも明らかになり、検討を深めることができました。
実務の観点からいうと、契約する小売電気事業者を切り替える際には契約書の取り交わしなどの事務の手間が各部署で発生しました。こうした手続きに関する説明を各部署に対して行う必要はありましたが、各部署の協力のおかげでスムーズに進めることができました。
佐賀市CO2分離回収設備(2022.1.20撮影)
江島氏 佐賀市清掃工場のごみの焼却によって出るCO2を分離・回収し、産業に活用しています。分離・回収したCO2は農業用ハウスや藻類の培養に使用し、今後工場などのCO2利用者へ販売するといったCO2を商品とした事業展開を目指しています。
実は、この取り組みは脱炭素というキーワードが今ほど注目されていないころから検討をスタートしたものです。当初は、CO2の削減を主な目的としていたのではなく、清掃工場から出るCO2を資源としてなんとか活用できないかという角度から検討を始めたものでした。平成17年と19年に旧佐賀市を中心とした周辺7町村との合併があり、ごみ処理施設を統合する必要が生じましたが、地域住民から合意をいただくまでに7年もの期間を要しました。これにより、清掃工場周辺に地域産業を創出することで、地域住民に役立つ施設へ変えていかなければならないという問題意識が生まれました。
その中で、農作物の収率を上げるCO2に着目し、資源として活用することにしました。「バイオマス産業都市さが」というビジョンのもと、サーキュラーエコノミーの実現を目指す中で、CO2を資源のひとつとして捉えたのです。
清掃工場の排ガスからの分離回収は世界中で行ったことがなかったので、安定的な回収が可能かを企業と連携し実証を開始しました。
「バイオマス産業都市さが」の構想は(1)清掃工場のCO2分離回収事業、(2)木質バイオマス利活用事業、(3)下水浄化センターエネルギー創出事業、(4)微細藻類培養によるマテリアル利用及び燃料製造事業、(5)家畜排泄物と事業計食品残さとの混合堆肥化事業、(6)事業系食品残さと有機性汚泥の混合利用事業―といった6つのプロジェクトで構成されています。
そのうちのひとつであるCO2分離回収事業は、清掃工場から出るCO2を資源として、微細藻類培養や農作物栽培などに活用し、新産業を創出することを目的としています。
事業の推進にあたっては、まず、平成25〜27年の2年間でCO2分離回収設備の小型試験装置による実証を行い、平成28年8月に日本初となる清掃工場の排ガスからCO2を取り出す設備が完成しました。これによって、1日に最大10トンのCO2を生産することができるようになりました。
江島氏 全事業費14.5億円のうち、環境省の二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金を5億円活用しています。ランニングコストは年間2,400万円ほどかかっており、当初の整備費と合わせると17年でコスト回収と試算していますが、このことが事業目的ではありません。
資源循環を推進する上でのCCUですので、コストがかかっても取り組むという意思がありました。一方で、販売収入が伸びていないという側面もありますので、CO2の用途や活用先の拡大を進めているところです。
* このあと、生産されたCO2の用途、民間企業との連携、市民の受け止め方、CO2分離回収事業の採算性を上げるための工夫、今後の課題・展望や他の自治体へのメッセージへと話はつづく。