熊本市は、東西2ヶ所のごみ発電を活用した地域エネルギー事業を多角的に展開している。市有施設への電力供給にとどまらず、蓄電池やEV充電設備の設置などの先進的な取り組みが注目を集めている。担当の温暖化・エネルギー対策室の山口氏、佐伯氏、環境施設課の竹本氏に詳細を伺った。
竹本氏 熊本市のごみ焼却施設は、東部環境工場と西部環境工場の2工場体制で運営しています。現在の2工場体制の前身である旧東部工場は昭和54年に稼働を始めました。昭和61年に建設された旧西部工場は、地域還元と農業振興を目的とした施設野菜省エネルギーモデル団地に熱供給を開始しました。併設された園芸ハウスは、現在の熊本市西部環境工場温水利用温室組合となっています。平成に入るころには現在の2工場体制となり、旧東部工場は平成6年、旧西部工場は平成28年に建て替えられました。
熊本市のごみ処理計画は、廃棄物計画課が所管しています。ごみのピット残などの管理は工場で行いますが、施設間のごみの搬入調整など全体的な運用管理は所管課が実施しています。現在の運営体制は西部環境工場がDBO、東部環境工場は直営です。
佐伯氏 検討のきっかけは大きく3点です。1つ目が、平成28年4月の熊本地震からの復興を目指す「熊本市震災復興計画」の推進です。同年10月に策定した本計画では「防災・減災のまちづくり」として『公共施設等での再生可能エネルギーの地産地消など、災害に強い自立・分散型のエネルギーシステムの構築』を推進してきました。2点目が、パリ協定や国の地球温暖化対策計画にのっとった「熊本市低炭素都市づくり戦略計画」の推進。そして3点目が、行財政改革の推進です。小売電気事業の自由化を受けた電力購入コストの削減を図っています。これら3点を同時進行で進めてきました。
民間事業者との連携を含めた地域エネルギー事業の立ち上げ、スタートにいたるまでの経緯をお聞かせください。
佐伯氏 本事業の具体化の契機として、西部環境工場のDBO事業者であるJFEエンジニアリング株式会社からの提案がありました。地域総合エネルギー事業を軸にした地域還元をしたいという提案をいただき、本市の方向性に通じる部分があったため、協力して進めていくことが決まりました。
経緯としては、まず平成29年度の「地域の特性を活かしたエネルギーの地産地消促進事業費補助金」において『廃棄物処理の余剰エネルギー活用によるくまもと型地産地消エネルギーモデル・マスタープラン策定事業』が採択されました。アーバンエナジー株式会社(JFEエンジニアリング100%子会社)を主申請者とし、本市は共同申請者として参加しました。
このとき策定したマスタープランには、現在のスマートエナジー熊本株式会社の基礎となる構想をすでに盛り込んでいました。地域電力会社が核となり市有施設に電力供給を行うことや、大型の蓄電池を設置したり、自営線を設置しEVの充電拠点を整備したりといったイメージはこの段階で形成したものです。マスタープランに基づき、電力の需給バランスのシミュレーションや余剰電力を蓄電池で吸収するコスト計算などを行い、検討を深めました。
検討にあたり部門の垣根を越えた協議を実施し、環境局を中心に、防災部門や設備関係の部署などと相談を重ねました。電力切り替え対象施設の中には学校関係が多く含まれていたため、教育委員会との調整も行いました。最終的に実施を判断したポイントは、エネルギーの地産地消や防災・減災に役立つという点に加え、CO2の排出削減に貢献するという点でした。
事前のシミュレーションによって、新電力に切り替えれば電力コストが下がることは認識していました。そのため平成30年5月、地域電力会社の設立を待たず、市有施設170ヶ所の電力契約を新電力に切り替えました。スマートエナジー熊本の設立は念頭にあったものの、早く切り替えればそれだけコスト削減メリットが大きいことから、予め切り替えすることを選びました。
スマートエナジー熊本は平成30年11月、JFEエンジニアリングの出資によって設立されました。翌年4月から地域エネルギー事業を開始し、同年5月に本市が出資。現在は5%の株を保有し、取締役1名を派遣しています。
電力契約をスマートエナジー熊本に切り替えることは、コスト削減に寄与するため庁内の合意をスムーズに得ることができました。蓄電池や急速充電器など大型の設備の導入に関しては、各部署と協議しながら進めています。令和2年4月には、上下水道局庁舎と南区役所に蓄電池を設置しました。蓄電池については今後も導入検討を継続し、市有施設間でばらつきなどがないよう設置を進めていく考えです。
実は、熊本市ではマスタープラン策定以前から、エネルギーの地産地消をしたいという思いがありました。策定によって、その思いがより具体化した格好です。当初は、自己託送を活用したり熊本市として関与して地域電力会社を設立したりするなどの案が生まれましたが、さまざまな角度から検討を続ける中で、地域電力会社の立ち上げが行政の施策としてベターという結論に至りました。単に電力を地産地消するだけでなく、地域エネルギー事業を通した様々な行政施策の展開が見込めることが大きな理由です。
佐伯氏 マスタープランの策定段階で、主要な市有施設はすべて電力切り替えの対象としました。ただ、中学校42校は平成29年に電力入札によるコストダウンに取り組んでいたため、当初は除外してのスタートでした。一方、指定管理者施設では、指定管理者自身が電力契約を結んでいるケースが多く、個別に協議をしながら進めました。
本市の市有施設の多くは、大手電力との契約でした。そのため、当時、スマートエナジー熊本への切り替えによって多くの電力料金の削減メリットが生まれ、切り替えの合意をスムーズに得ることができました。本庁舎を含めすでに入札を実施していた施設に関しては、所管課に事業目的を理解してもらい切り替えに至ることができました。
スマートエナジー熊本の通年の電力需給バランスとしては、東西2ヶ所の環境工場の発電量で、需要の約95%をカバーできている状態です。夏や冬のピーク時には需要が供給を上回ることがありますが、全体としては地産地消に成功していると考えています。
市有施設の電力削減コストは「省エネルギー機器等導入推進事業基金」として活用しています。基金は、ZEHやEV、5スターの省エネ家電などの購入補助資金として利用し、市民への還元を行っています。電力削減コストは年間で約1.6億円にのぼり、半分の8,000万円を基金に充てています。
熊本地震の前には市民向けに補助事業を実施していたのですが、震災後は復興のために一時中断してしまいました。スマートエナジー熊本による削減メリットを市民への補助事業として充当できることは、市民の方々へのメリットも大きいと感じています。
* このあと、蓄電池・EVの導入状況、地域エネルギー事業を進めるにあたっての課題、実現に至った推進力や関係者との連携、スマートエナジー熊本の現状と今後の展望、SDGs自治体モデル事業としての位置づけ、他の自治体へのメッセージへと話はつづく。